巻1-2番歌|大和には群山あれどとりよろふ天の香具山(舒明天皇)

『万葉集』第1巻 2番歌(舒明天皇)

大和には群山あれどとりよろふ天の香具山登り立ち国見をすれば国原は煙立ち立つ海原は鷗立ち立つうまし国そ蜻蛉島大和の国は

漢文・読み下し文・現代語訳

標目

漢文

高市岡本宮御宇天皇代〔息長足日広額天皇〕

読み下し文

高市岡本宮たけちのをかもとのみやあめのしたをさめたまひし天皇すめらみことみよ息長おきなが足日広たらしひひろぬかの天皇すめらみこと

語釈
  • 高市岡本宮たけちのをかもとのみや:現在の奈良県高市郡明日香村大字岡にあったと伝わる舒明天皇の皇居。
  • 息長おきなが足日広たらしひひろぬかの天皇すめらみこと:舒明天皇。第34代天皇(在位:629~641年)。

現代語訳

高市の岡本に宮を定めて天下を治められた天皇の御代〔息長足日広額天皇〕

題詞

漢文

天皇登香具山望国之時御製歌

読み下し文

天皇てんわう香具かぐやまのぼりてくにのぞみたまひし時の御製おほみうた

語釈
  • かぐやま【香具山】:現在の奈良県橿原市にある山。大和三山の一つで、古来から聖山とされた。
  • おほみうた【御製歌】:天皇がお詠みになった歌。

現代語訳

天皇が香具山に登って国を見おろされた時にお詠みになった歌

本文

漢文

山常庭 村山有等 取与呂布 天乃香具山 騰立 國見乎為者 国原波 煙立龍 海原波 加萬目立多都 怜𪫧国曽 蜻嶋 八間跡能国者

読み下し文

大和やまとには 群山むらやまあれど とりよろふ あまやま 登り立ち くにをすれば 国原くにはらは けぶり立ち立つ 海原うなはらは かまめ立ち立つ うまし国そ 蜻蛉島あきづしま 大和の国は

語釈
  • むらやま【群山】:多くの山。群がり続いている山々。
  • とりよろふ【取り具ふ・取り寄ろふ】:語義未詳。草木の繁茂、装い飾る、都に近く寄っている、など諸説あり。
  • くにみ【国見】:高所から見おろし、その国土の繁栄を予祝する儀礼。
  • くにはら【国原】:広々とした平野。
  • けぶり【煙】:炊事の煙。
  • うなはら【海原】:広々とした海。香具山から海は見えないが、周辺に「埴安池はにやすのいけ」、「耳成池みみなしのいけ」、「磐余池いわれのいけ」などの池があった。
  • かまめ【鷗】:海鳥の名。カモメ。
  • うまし【甘し・美し】:立派だ。素晴らしい。
  • あきづ【蜻蛉】:トンボの古名。トンボは豊作のしるしと考えられていた。

現代語訳

大和には多くの山々があるけれど、草木の装い豊かな天の香具山に登り立って国見をすると、広々とした国土にはかまどの煙があちこちから立ちのぼり、広々とした湖には水鳥が次々と飛び立っている。なんと素晴らしい国よ、豊作を知らせるトンボが舞う島、大和の国は。

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作者

舒明天皇じよめいてんわう

分類

部立

雑歌

歌体

長歌