巻1-1番歌|籠もよみ籠持ち掘串もよみ掘串持ち(雄略天皇)

『万葉集』第1巻 1番歌(雄略天皇)

籠もよみ籠持ち掘串もよみ掘串持ちこの丘に菜摘ます児家告らな名告らさねそらみつ大和の国はおしなべて我こそ居れしきなべて我こそ座せ我こそは告らめ家をも名をも

漢文・読み下し文・現代語訳

標目

漢文

泊瀬朝倉宮御宇天皇代〔大泊瀬稚武天皇〕

読み下し文

泊瀬朝倉宮はつせのあさくらのみやあめのしたをさめたまひし天皇すめらみことみよ大泊おほはつ稚武わかたけるの天皇すめらみこと

語釈
  • 泊瀬朝倉宮はつせのあさくらのみや:現在の奈良県桜井市黒崎、または同市岩坂にあったと伝わる雄略天皇の皇居。
  • 大泊おほはつ稚武わかたけるの天皇すめらみこと:雄略天皇。5世紀後半の天皇。

現代語訳

泊瀬の朝倉に宮を定めて天下を治められた天皇の御代〔大泊瀬稚武天皇〕

題詞

漢文

天皇御製歌

読み下し文

天皇てんわう御製おほみうた

語釈
  • おほみうた【御製歌】:天皇がお詠みになった歌。

現代語訳

天皇がお詠みになった歌

本文

漢文

籠毛与 美籠母乳 布久思毛与 美夫君志持 此岳尒 菜採須児 家告奈 名告沙根 虚見津 山跡乃国者 押奈戸手 吾許曽居 師吉名倍手 吾己曽座 我許曽者 告目 家呼毛名雄母

読み下し文

もよ みち くしもよ みくしち このをかに ます いへらな らさね そらみつ 大和やまとくには おしなべて 我こそれ しきなべて 我こそせ 我こそは らめ いへをもをも

語釈
  • こ【籠】:竹などで編んだ籠。
  • み【美】:美称、また、語調を整える。
  • ふくし【掘串】:竹や木の先をへら状にとがらせた、土を掘る道具。
  • こ【児】:人を親しんで呼ぶ語。男女ともに用いる。
  • そらみつ:〘枕詞〙「大和」にかかる。
  • おしなべて:あまねく。すべて。一様に。
  • しきなぶ【敷き並ぶ】:くまなく支配する。広く領有する。

現代語訳

その籠、かわいい籠を持っているね。その掘串も、おしゃれな掘串だね。この丘で菜を摘んでいる乙女よ、あなたの家はどこなのか、名前も教えてくれないかな。そらみつ大和の国は、すべて私のものなんだよ。私こそがこの国を統治しているんだよ。私から告げましょう、家も名前も。

作者

雄略天皇いうりやくてんわう

分類

部立

雑歌

歌体

長歌